Rと申します。今から約2年前、当時30歳の頃、外資系企業の日本法人地方支社で働いていました。そこで働いていたある女性との間に起こったお話です。
Rさん(32歳・女性)の体験談
新入社員Mがやってきた
私が働いていた会社は外資とは名ばかりの、日本企業相手の営業拠点という感じで、中身は完全に日本企業。英語ができるような社員もほとんどいないような企業風土でした。(それは今もほとんど変わりませんが・・)私はそこで営業事務の仕事をしています。
そんな我が社には、毎年営業要員として1~2名の新入社員が入社してきます。その年の新入社員のMは超破天荒でした。
Mは、見た目はこけしのような可愛い日本美人でしたが、海外在住歴が10年以上の、いわゆる帰国子女の女性でした。異色の新入社員でしたが、どうも「一応外資系企業だから、たまには外資っぽい子を入れてみよう」という人事の思惑があってのチャレンジ採用だったようです。
そして、波乱はMの配属初日から始まりました。
「OK! だったらトムね!」
教育担当の先輩社員に連れられて、社内での挨拶まわりを始めたMですが、最初に支社長に挨拶に行った時「シシャチョーって、ファーストネームは?」と切り込み「ツトムだけど」と支社長が答えると、なんと「OK! だったらトムね!」と、いきなり支社長をトム呼ばわりし始めたのです。
その後も支社内の社員みんなに海外ネーム風のあだ名をつけつつ、Mの営業活動が始まりました。仕事への取組み姿勢はとても積極的でよかったのですが、取引先との会話に英語が混じりまくり(コントラクトをサブミットします等)「何を言ってるかわからない時がある」とクレームがくるようになりました。
すると今度は日本語をもっと習得しようと時代劇を観まくっていたようで、クレームに対しての謝罪で「拙者はかたじけない」など、言い回しが独特になりさらに炎上することもありました。
またMは、相手が上司であろうと取引先であろうと、自分の意見や考えは臆せずはっきり発信していました。方針がコロコロ変わる上司に「あなたはいつもチェンジしてばかりでおかしい」と指摘したり、製品の値引きを要求してくる取引先に「決まっているレートをダウンさせようとするのはなぜ?」と問い詰めたりすることがありました。
その都度、大炎上しましたが、Mの言うことには表裏がなく、大抵は正論でした。私や周囲の社員は、Mの言動で留飲を下げることも多く、Mを少しうらやましく思うこともありました。
そんな風に奇天烈で周囲を困らせることもあるけれど、仕事や人との向き合い方がいつも一生懸命なMは、社内では(一部の上層部を除き)どこか憎めない存在として受け止めれられ見守られていました。
しかし本人は本人なりに悩んでいたようです。
馴染めば馴染むほど自分に悩むM
取引先との関係をなんとかしてもっとスムーズにできるように、日本語のブラッシュアップはもちろん、日本の流儀や文化を身に着けようと努力をし、次第にコミュニケーションは上手になっていきました。
けれども、自分が納得しないことにも問答無用で従わなければいけなかったり、大人の事情で忖度しなければいけないシーンがやはりあり、Mはだんだん元気がなくなっていきました。
最終的には、入社して1年半でMは会社を去り、アメリカに渡って現地企業に転職することになりました。
「楽しかったし悲しかったしシアワセだったよ。またね!See You!」という言葉を残して。
支社長は「やれやれ、もう帰国子女はまっぴらだな」と言っていましたが、お別れの寄せ書きにメッセージと共に「トムより」と書き添えていたのをみんなは見逃しませんでした笑。
Mがいなくなった会社はある意味平和を取り戻したような気もしますし、もうMみたいな子は入社してこないと思うけれど、すごく寂しくなったのも事実です。
アメリカで頑張るんだよ、M!